「お待ちどおさま。」
あなたが先に座って待っていた4人掛けボックス席のテーブルに、持ってきたアイスコーヒーを置く。
あなたが座るシートの横に、スカートの裾を押さえて腰掛ける。
「この時間帯は、やっぱり混んでるね。」
自分の前に置かれたアイスコーヒーにストローを刺すあなたの手元を、ついつい見てしまう。
すらりと長い指で摘んだストローを、くるりとかき回してから吸う口元が・・・
「どしたの?沙織。おいしいよ。」
小さく微笑むあなたに、ちょっと違うことを想像してしまった自分が恥ずかしくて、
「う、うん。」
と答えながら、ミルクを入れたコーヒーを5回かき回す。
そんな私の妄想など気づくはずも無く、あなたは宿題があとちょっとだとか、
夏休みもあと6日だねとか話しながら、あっという間にコーヒーを飲み干してしまう。
騒がしい店内だから、私たちの時間もせわしなく過ぎてしまうの?
こんなところじゃ、あなたとゆっくり過ごすなんて夢のまた夢・・・
「もーらいっ!」
あなたのストローが私のコップに滑り込んで、みるみる水位が下がる。
「あー!ちょっとぉ!」
ストローを咥えたまま楽しそうに笑うあなたを、とても本気で怒れない。
だって、好きだから。
「あ、沙織。」
あなたのハッとした声に思わず肩をすくめて現実に引き戻される。
「もう7時になっちゃう。早くしないと、また親に怒られちゃうよ?」
「あ・・・うん・・・」
もうそんな時間。
私の悲しげな表情に気づいたあなたは、ちょんと私の頬に指で触れて注意をひきつけると、
自分の方に向いた私の唇に小さくキスをする。
これだけの人がいる中で、誰も気づかないほど素早いのに、スローモーションなキス。
「そんな顔しないの。折角の楽しい日だったのに。」
「う・・・ごめん。」
私は顔を真っ赤にしながら、残りのコーヒーを飲み干す。