3月。
私に生徒会の白羽の矢が立つことは、学年末試験の結果が出る前から分かっていた。
1学期2学期の中間・期末試験全てで1位を取り続けて来た実績は皆が知るところだったから。
そんな折、普段となんら変わりない昼休みに昼食を囲む由梨が私に切り出した話題。
「ねえ、蘭ちゃん。やっぱり生徒会のお誘い来るんでしょ?」
いつになく真剣な表情にやや気圧されて、私ともあろう者が少し戸惑う。
「ええ、恐らくね。でも、そういうの、私嫌いだし・・・」
軽くうそぶく私を、キラキラと輝く瞳で見つめる由梨はどう見ているのだろうか。
権力・・・
むしろ嫌いではない。それは忌まわしき血のせいか。
ただ、無償奉仕は望まない。そんな考えの方が強かった。
「うーん。でも、生徒会長って学年トップの成績の証でしょ?羨ましいなぁ。」
どういう意図を持って出てきた言葉なのか掴みあぐねて、つい、訊いてしまった。
「由梨は、生徒会に入りたいの?」
その言葉に反応したものの、すぐに残念そうな表情になって俯く由梨。
「うん・・・皆の為に何か行動するって、とても素敵な事だと思うの。」
「ふう。由梨、何かってね。具体的な方策も無しに民衆を導くことは出来ないものよ。」
溜息をついて脚を組み替えながら言う私の言葉に、そうなんだけど、と由梨が虚空を見つめる。
「だからね、蘭ちゃんが生徒会長やるなら、そのお手伝いがしたいって言うか、わたしにも
蘭ちゃんの役に立つことが出来るんじゃないかなって、思って・・・」
つまり、由梨は副会長をやりたいという事だろうか?
確か、副会長は原則として会長の指名という決まりらしいけど・・・
そこまで言い終えると、由梨は少し頬を赤くして俯いてしまう。
「由梨・・・」
その表情を見た途端、胸の奥がなぜか苦しくなり、手を伸ばしたくなってしまう。
こんな気持ちは、誰でも友達に対して感じるものなのだろうか。
自分自身の反応に戸惑ううちに、由梨の話は続く。
「いつも蘭ちゃんには仲良くしてもらってるから、助けてあげられたら嬉しいなって思っただけなの・・・」
その微笑みは、私の鼓動を一つ、高鳴らせた。
その瞬間、私の考え方に、何かが弾けた。
私が、この子の為にしてあげられる事があるなら・・・
「由梨・・・わかった。その想い、無駄にはさせないわ。」
微笑み返す私の顔を見て、ぱっと由梨の顔がほころぶ。
「蘭ちゃん・・・うん!」
この子の笑顔が、私は好き。
その笑顔は、私だけに向けて欲しい。
なんとしてでも、それを手に入れたい。
胸の奥から溢れ出そうになる想いを秘めたまま、ポーカーフェイスでペットボトルの紅茶に口をつける。
・・・・・・。
私には、甘すぎるわね。